#3

「――でだ、私がこうやって突っ込むわけだ。……回し蹴り!」
「馬鹿野郎。何で蹴るんだよ」
「いつも突っ込みって言ったら手の甲じゃん? つまんないじゃん? だから足を使ってみようと思うじゃん?」
「思わねーし、面白くねーし」
「面白いかどうかはやってみないとわかんないじゃん?」
「やんなくても分かるじゃん?」
「と思うじゃん?」
 うぜえ。以下無限ループになるだけなのでここで小休止。
「蹴ったらお前のパンツとか見えるだろ」
「スケベ変態馬鹿ウンコ!!」
 俺は右手で頭を抱える。
 アケミが面白いことを思いついたからと打ち合わせみたいなのをしているわけだが、こんなのだったらアドリブだけでいけるんじゃないかと思い始める。
「最初にお題みたいなのを出して適当にアドリブしつつやってればいいんじゃないか」
「ダメだ。完膚無きまでにラクダを笑わせる」
 何も知らない人が聞いたら可笑しいセリフを平然と言ってのけやがる。
 それだけでも十分面白いと思うのだが、当の本人はそれに気づいてない。
「折角水族館に来てるんだから、水族館をお題にしてショートコントすればいいだろ」
「……何か良い案でもあると?」
「まあ、そうだな……。俺がペンギンの飼育係で、お前がペンギン大好きっ子という設定にしよう」
「普通だな」
「……続けるぞ。お前が俺に近づいて来てこう言うわけだ。『きゃーペンギンさーん』」
「変態が近づいてるから逃げてー」
「…………おいこら」
「きゃーこの人女の子を丸裸にして見せびらかしてるー真性の変態だー」
「これは餌だから服とか無いから。確かに子持ちのシシャモだけども」
「うわー人妻ものだー」
「人じゃねえよ! ……いやこれ散らかしっぱなしだろ。どうやって落とすんだよ」
「適当なタイミングでどうもありがとうございましたとお辞儀すれば何でも落ちる!」
 なんて奴だ。
 真面目に打ち合わせをしていたのが馬鹿馬鹿しい。俺は近くにあったベンチに腰を落とす。
 ふと、気になることが思いついた。
「そういえばさあ、橘先輩と初めて会ったのっていつだっけ?」
 アケミはぐるりと俺の方へ身体を向け、まるで変な物を見つけたような顔で、
「――はあ?」
 何でこんな反応をされたのかが分からない。別にいいじゃないか。初めて出会った日なんてものは、よっぽどの思い出がない限り忘れていると思う。
 逆に、アケミは確か「初めてあったときから――」と言っていた。ということは、そのよっぽどのことがアケミにはあったのだろう。覚えているに違いない。その場に俺がいたのかは知らないけど。
「去年の夏休みだろ? 花火で遊んでたら男に絡まれてる女を見つけて、それを助けたのがスグルだろ」
「――え?」
「なんで逆にそんな反応をするんだ? スグルは覚えていなかったのか?」
 そういう出来事があったのはなんとなく覚えている。ただ、周りが暗かったことと、追いかけてくる野郎共から必死で逃げていたから女性の顔までは覚えていなかった。
 そうか。あの時の女性か。
「ま、どっちだっていいけどな。覚えていようが覚えていまいがあいつは嫌な奴だ」
「前にも聞いたと思うけどさ、何で嫌な奴だって分かるんだ?」
「スグルは何でラクダを庇うんだ」
「庇う庇わないの問題じゃないから。嫌なことをしているんなら嫌な奴だって俺も共感出来る。それを知りたいだけだ」
「――そ、そんなの、……お、女の勘だっ!」
 なんじゃそら。
 結局の所、アケミが何故橘先輩を嫌っているのが分からなかった。ただ単に巨乳ってだけで嫌っていたような気がするアケミもアケミだが、嫌がらせとか苛めとかしていないのだからもうちょっと仲良くなってもいいと思う。
 そうこうしているうちに十五分が過ぎた。そろそろ戻った方がいいかもな。
「――で、結局どういう風に行くんだ?」
 アケミに問う。まあ大体の返答は予想付く。いつも通りに適当にやろうとか、めんどくさいから最初のやつでとか、そんな感じだろう。
「……プランCでいくぞ!」
 しまったそれは俺も予想外だった。
「ま…………まじかっ!?」
 プランCがどういうやつか俺も分からん。適当にやり過ごして相手の出方を待つ。
「――てな訳で、後は頼んだぞスグル!」
 まさかのノープランだったー!
 何のための打ち合わせだったんだよアケミ。
「……じゃあ、いつも通りに適当にやるか」
「……そうだな」
 とはいえ、いきなりボケろって言われてボケられる人間はいないだろう。何か話題くらいは振っておかないとな。
 俺は最初になんて声を掛けようかと考えながら、橘先輩達の所へ戻った。







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